博多ラーメンが食べたくなったので半日かけて北部九州を一周した話
※この記事を書いた際に摂取していた文章の影響で、記事全体が常体になっていますが、特に気にせずお読みください。
「大回り乗車」というものをご存知だろうか。
鉄道の運賃は、ふつう、出発地と目的地だけでなく経由地も加味して計算される。
同じ駅から出発して同じ駅に到着しても、より遠回りになるルートのほうが、長い距離で鉄道を利用しているのだから、当然に高い運賃が必要になる。
しかし一方で、旅客が利用した途中駅を完全に把握することは難しい。ほとんどの鉄道で、ホームへの出入りでは改札を通過する必要があるのに対して、ホーム内での乗り継ぎをチェックすることができないからだ。
そこで、途中駅の選択肢が複数あるような出発駅と到着駅の組み合わせを利用した場合、一定の条件さえ満たせば、同じ出発駅と到着駅で、最も運賃が安くなるように選択した行程と同じ運賃で乗車できる仕組みがある。
一定の条件とは、鉄道会社・エリアによって差があるが、JR九州の場合は以下の通りである。
・ICカード乗車券「SUGOCA」を利用すること。
・SUGOCA利用可能エリア内・利用可能駅での発着で、かつエリアどうしをまたがって利用しないこと。(おおざっぱには、佐賀駅以東・下関駅以南・八代駅/幸崎駅以北での利用であること)
・同一区間を2度経由しないこと。
・出発駅から到着駅の間で、ホームから出場しないこと。
※先述したように、厳密な意味では「同一区間を2度経由したかどうか」をJR側が判断するのは困難である。しかし、このような制限が課せられている以上、当然利用者はそれを遵守すべきであることは言うまでもない。
参考
※ページ内で用いられている「減額」とは、その金額を割り引くという意味ではなく、その金額分SUGOCAでの決済を行うという意味である。
これを(ある意味で)悪用して、円を描くように鉄道に乗車し、出発駅のすぐ隣の駅に反対側から到着することで、運賃を劇的に抑えることができる。
これが、「大回り乗車」である。
もちろんホームから出ることはできないので、経由地で観光をすることは基本的にできないが、ホーム内での飲食店や売店を楽しんだり、特急列車を満喫したり(※)、車窓からの景色を眺めたりといった楽しみ方ができる。
※特急列車への乗車には、通常、乗車券と特急券の両方が必要になる。乗車券は安く抑えることができるが、特急券は実際に特急列車に乗る区間の分だけ別途購入しなければならない。といっても、通常の利用方法と比較すれば大幅に割安になる。
ここまでで、「大回り乗車」について、ある程度理解していただけたかと思う。
というわけで、先日、この大回り乗車を利用して、北部九州を一周してきたので、今回はそのレポートをさせていただく。
*
(以下、駅名の「駅」を省略する)
大回り乗車をするにあたって、最も重要になるのは事前に計画を立てておくことである。大回り乗車の条件は先述したが、これを破ってしまうと大回り乗車は適用されず、相当額の運賃を払うことになる。
もちろん、何らかの事情があり自分でホームから出場した場合などは諦めもつくが、たとえば夜間閉場する途中駅で終電を逃すなどのミスを犯してしまうと、強制的に出場することになる。また、ホームから出られない都合上、あまりに長い時間の乗り換え待機なども避けたいところである。
細かい住所まで公にする気はないが、私は大分県大分市内に在住している。したがって、必然的にSUGOCAの「福岡・佐賀・大分・熊本エリア」内で大回り乗車を行うことになる。
豊肥本線は、災害の影響で不通になっており、現在は熊本~大分間で横断するような利用はできない(と私は認識している)。となると、同一区間を二度利用することができない都合上、考えられるルートはかなり少なくなる。
ぜひ先述したリンクの路線図を参照しつつ読み進めていただきたいが、今回は大分から日豊本線で北上し、西小倉で鹿児島本線へ乗り換え、久留米でさらに久大本線へ乗り換えて、大分へ戻るというシンプルなルートを選択した。
博多駅では、ホームで立ち食いの博多ラーメンを食べることができるため、今回の旅の主目的として、それを設定することにした。
そうと決まれば、早速時刻表を睨みつつ、具体的な乗車計画を立てていく。
なお、出発駅は大分の一つ先、西大分を選択した。もちろん、大分から出発して古国府に到着してもいいが、帰ってきたあとのアクセスの良さを考慮して大分駅を到着地にした。また、以前向之原で大回り乗車を終わったとき、SUGOCAの読み取り機がエラーを出して駅員に説明を求められたことがある(その際も結局大回り乗車は適用できた)ため、話がややこしくならないように大分駅の改札口で決済を行いたかったというのもある。
ちなみに、大分駅から日豊本線で出発して、帰りに久大本線から日豊本線下りに乗り換えて牧に到着するような利用が可能かは不明である(二度同じ区間を利用することはないが、大分で点で接するような形になる)。
というわけで、実際に立てられた計画が以下の通りである。なお、この計画は、2020年3月14日版のJR九州時刻表冊子を基に作成されている。
7:51 西大分 ~ 日豊本線(上り) ~ 9:19 中津
9:39 中津 ~ 日豊本線(上り) ~ 10:43 西小倉
10:46 西小倉 ~ 鹿児島本線(下り) ~ 12:05 博多
12:23 博多 ~ 鹿児島本線(下り) ~ 12:58 久留米
13:07 久留米 ~ 久大本線(下り) ~ 14:12 日田
14:17 日田 ~ 久大本線(下り) ~ 15:21 由布院
16:05 由布院 ~ 久大本線(下り) ~ 17:05 大分
博多での乗り換え時間は18分である。立ち食いラーメンを食べる時間としては丁度いいだろう。
立ち食いラーメンである以上、何十分も長居するような行為もまた風情に欠けるものだと私は考えている。
*
計画を携えて、出発の朝を迎えた。
予定通り、西大分の改札から入場する。SUGOCAをタッチすると残高が1000円未満であることを告げるメッセージが表示され、このSUGOCAで博多まで行こうとしていることに改めて緊張を感じた。
当日は日曜日だったが、通勤・通学と見られる人が多少乗車しており、車内は多少混雑していた。
別府を抜けるころになると、ぐっと乗客が減ってきたのが感じられる。
家を出たのがかなり早い時間だったので、シートに腰掛けて軽く仮眠をとりつつ、あっという間に中津に到着した。
中津では20分間の乗り換え待ちである。部活動に行く途中と思われる学生の姿もこの時間になると少なくなり、ホームで待っている乗客は両手で数えるほどしかいない。
ほどなくして列車が到着した。この車両はボックスシートになっており、ようやく落ち着いて座ることができた。
中津を出た列車はすぐに福岡県へ入っていく。西小倉へ近づくにつれ、今度は遊びに出かけるであろう私服姿の学生や親子連れが多くなっていく。
車内での時間つぶしにと携行した文庫本を読みつつ、都会の町並みを揺られる。
列車が西小倉へ近づいてくると、次第に緊張が大きくなってくる。この行程の唯一といってもいい重要なポイントが存在するからだ。
少しややこしい話になるが、日豊本線の終点は西小倉ではなく、一駅先の小倉である。しかし、西小倉 - 小倉間は、鹿児島本線とも区間を共有している。したがって、日豊本線で小倉まで行ったあと、鹿児島本線で折り返して博多方面へ向かうと、西小倉 - 小倉間を2を二度利用することとなり、大回り乗車の規定に反する(なお、通常の乗車券で乗車する場合も、原則として同じ区間を二度利用することはできない。その影響かどうかは定かではないが、日豊本線と鹿児島本線の乗り継ぎは西小倉でちょうどいいタイミングになっており、日豊本線が小倉へ到着するよりも少し前に、鹿児島本線が小倉を出発する)。
そのため、西小倉を乗り過ごすわけにはいかない。細心の注意を払って、予定通り西小倉へ降り立つことができた。
西小倉での乗り継ぎは、そもそもダイヤ自体が乗り継ぎを考慮されているようで、同じ乗り換えを利用している乗客が私の他にも十数人見受けられた。人の流れに乗ってホームを移動し、鹿児島本線へ乗り換える。
鹿児島本線は、利用客が多いからか再びロングシートであった。ちょうど一人分ずつくらいの間隔を空けて、乗客がシートに座っている。
と、5人か6人くらいの高校生が乗車してきた。しかし、連続して空いている席は3人分しかない。
その時、3人分の空席に面して座っていたサラリーマンが立ち上がり、隣の女性に一言声をかけると、女性の反対側に座りなおした。これで、ちょうど人数分の座席が空き、高校生は二人に礼を述べて着席した。
この様子を見て私は非常にいい気分になったので、次に子供を3人連れた夫婦が乗車してきたとき、似たような方法で席を空けてさしあげた。
さて、そうこうしているうちに列車は博多へ到着する。当駅止まりの路線ではないが、殆どの乗客はここで下車するようで、人波に身を任せてホームへ降り立った。
ここで、今回のメインイベント、ホームでの立ち食いラーメンに臨むこととなる。乗り換え時間は18分と十分にあるが、万が一乗り過ごすと面倒なことになるので、自然と歩調が早まる。
立ち食いラーメンの店は、今回の行程とは関係ない1番ホームにある。早足で店に到着すると、先客は2名と少なかった。以前訪れた際は溢れんばかりの人垣だったので、ほっと一安心する。
券売機で食券を購入し、ラーメンを待った。
私は嫌いなラーメンのジャンルというものが特になく、塩ラーメンから二郎系までなんでも食べるが、そのなかでも博多とんこつは別格といっていいレベルで好みである。詳細な博多とんこつラーメンに対するラブコールはここでは省くが、駅のホームで食べるこの味も、風情も相まって最高の味わいに感じられた。
ラーメン屋が混んでいなかったということもあり、予定よりも早く目的を達成することができた。ここからは旅の後半戦、帰り道である。
鹿児島本線のホームへ移動して久留米行きを待っていると、3分ほど遅延するという情報が入ってきた。どうやら急いでいたのは杞憂だったようである。
3分遅れると言ったからには、きっちり定刻から3分遅れて列車がやってきた。
鹿児島本線で久留米を目指す。車窓から我らが筑後川を望むことができた。
久留米は大きなターミナル駅ということもあり、乗り換えの人波はかなり混雑していたが、その中でも久大本線に乗客して日田方面を目指そうという乗客はかなり少数派のようである。
久大本線は久留米始発の路線であるため、他のホームからはみ出した位置にホームが設置されており、いわゆる0キロポストも見ることができた。
久大本線おなじみの黄色い列車へ乗車した。普段なら閑散としている車内だが、今日は日曜日ということもあり、旅行客と察せられる親子連れが駅弁を食べている。駅弁も鉄道にちなむグルメとしてはメジャーな存在である。次の機会には駅弁を目的に据えるのもいいな、などと考えていると、列車が発車した。
各駅停車の列車は久留米市内を抜け、福岡県を抜けて、1時間かけて日田へ到着した。ここで由布院行きへ乗り換える手はずだったが、降車してみるとどうやら様子がおかしい。ホームに他の列車が到着していないのである。
もしかしたら時刻表上で別の列車として掲載されているだけで、同じ車両で由布院へ向かうのかと思い至り、車掌に訪ねてみることにする。
この列車が大分方面・由布院行きかと尋ねると、大分方面ではあるが豊後森止まり、それでもよければとのこと。ここでようやく、先の豪雨の影響で、豊後森 - 庄内間が代行バス運転になっていることに思い至る。しかし、まさか日田で下車するわけにはいかないので、車掌には礼だけ言って列車に乗り込んだ。
日田と豊後森の間は数駅しかなく、列車の最後尾で車窓を眺めていたらあっという間に到着した。
代行バスに乗車したことはなかったので他の乗客のあとについていこうと思ったが、改札の内側からロータリーを眺めてみても、それらしきものは停車していない。他の乗客にもバスのことを気にしている者はいないようで、何事もなく改札を抜けると三々五々に散っていく。それでは困る。
列の後方で待機していたが、私以外の乗客はいなくなってしまったので私も改札を出ざるを得なくなった。
豊後森にはSUGOCAをタッチするための端末が整備されていないため、とりあえずタッチを命じられて高額な運賃の支払いが確定するという事態だけは避けられそうだったが、どちらにせよ今日中に大分へ向かう手段がないのであれば、ここから日田方面へ折り返さねばならないのは必定であり、その場合同じ区間を二度通るのは明らかであるから、相当分の運賃を求められて当然だろう。
そのことを踏まえ、駅員にSUGOCAを持って乗車している、大分へ向かうはずだったがここで足止めを受けた、と説明すると、代行バスの存在について説明したうえで、1時間半後にゆふいんの森号が到着するのに合わせてバスが発車するから、それまで駅の内外にかかわらずとりあえず待機していれば、特に途中下車した扱いになることなくそのバスに乗車して庄内を目指せる、との回答を得た。
こちらとしては、ホームを出る手続きをすることなく今日中に大分を目指せるということで、1時間半程度の足止めは気にならないし、駅構内から出れるとあってはむしろ願ったりかなったりである。
駅員に礼を言って駅を出た。駅の近くに、豊後森機関庫という歴史を感じさせる機関庫跡があり、それを見に行ったり、
近くの店で売られていたソフトクリームを食べたりして時間を潰した。
予定時刻の少し前になり駅へ戻ると、大型の観光バスが2台停車していた。1台に乗り込んでしばらく待っていると、駅にゆふいんの森号が到着し、次いで特急の乗客がバスへ乗り込んできた。2台の観光バスはどうやらほぼ満員のようで、由布院を目指す観光客が一定数いることが感じられた。
バスは高速道路を経由して、軽快に由布院へと到着した。どうやら、ここからさらに庄内へ向かうには、由布院バスターミナルでさらに約1時間の待ち時間が発生するらしい。見たところ、観光バスに乗ってきた客のうち、庄内まで向かおうと待機しているのは10人弱といったところで、他の乗客はそれぞれに散っていった。
由布院バスターミナル内でじっとバスが到着するのを待つ。隣の女子高生はひたすらスマホと向き合っていたが、通信制限を食らっている私は何もすることができずバスターミナルの張り紙を何度も何度も反芻して過ごした。
時間になり、ようやくバスが到着した。大型の観光バスが2台準備された豊後森 - 由布院間とは異なり、路線バスの車両が1台のみである。それに対して乗客の数はそこそこ多く、すし詰めになりながら由布院を出発した。
国道210号線を経由して、30分ほどかけて庄内を目指す。庄内の手前にも数箇所停留所があり、旅館の前で降車する客が数名いた。席が足りていないため運転席の後ろで立ちっぱなしだったが、もしかしたら全行程でここが最も堪えたかもしれない。
細い路地を抜けて庄内へ到着すると、すでに列車が到着していた。あとはおなじみの車両に乗って、大分を目指すのみである。
さて、予定よりもだいぶ時刻が下がったが、無事大分まで帰ってくることができた。あとは、手元の残高が250円しかないSUGOCAで自動改札を通過できるかが問題である。
前回の経験から自動改札で止められる可能性があることは織り込み済みだったので、駅員に説明するための台詞を推敲しながら改札に向かう。
恐る恐る改札にSUGOCAをタッチすると、あっけなく「170円」と表示されて、それっきりだった。
*
これが、先の休日、大回り乗車を使って北部九州を一周した私の道程である。ここまで大量の文を読んでくれた読者の皆さんに感謝するとともに、皆さんが大回り乗車、ひいては鉄道に何らかの興味を持ってくれることを願ってやまない。
最後に、この記事の更新が2週間以上放置されたことをお詫びいたします。申し訳ありませんでした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
M